レジ袋有料化を批判する前に政策の意味を考えてみる~環境経済学の観点から~
はじめに
7月から日本全国で、レジ袋の有料化が始まった。7月以前に有料化されているスーパーを日常的に利用されていた方々にとってはなんてこともないだろうが、僕の家族のようにレジ袋が無料のスーパーを日常的に使っていた人々にとっては大きな変化であろう。例にもれず、僕の家族もレジ袋の有料化は不満のようだ。
僕はというと、少年時代から環境問題には関心が強く、これだけ気候変動/地球温暖化をはじめとした環境問題が深刻になっている現代社会では、コロナ禍というタイミングの悪さはあれどレジ袋有料化は自然の流れとして当然のものと思っていた。
しかし、Twitterなどを眺めていると想像以上に今回のレジ袋有料化が物議を醸しているではないか。しかも、多くリツイートやいいね!がされているものは主に「レジ袋は環境に悪くない!」「環境省は頭が悪い!」「偽善欧米リベラルにはうんざりだ!」といったようなレジ袋有料化反対派のツイートであった。小学生時代グランドでサッカーやドッジボールではなく、昆虫採集をしていたくらい地球と環境を愛してやまない僕としては正直残念な気持ちを抱いた。無邪気故に数多の虫や生き物の命を葬ってしまったこともあったが...
環境問題に関心をもったきっかけなどはまた別の機会に書くとして、レジ袋有料化反対派のツイートを見ると下記のツイートで触れらているような経済学で言うところの"外部不経済の内部化"が世間には理解されていないなという感想を抱いた。
ペットボトル、割り箸、レジ袋問題に共通する本質的問題は外部不経済の内部化です(経済学部の1回生で習う理論ですがそれほど難しくはありません)、多くの議論がこの本質的問題に無頓着で、表層的印象論やチェリーピッキング、恣意的解釈に終始して(更に冷笑主義に陥って)いるのはとても残念です。
— 安田 陽 (@YohYasuda) 2020年6月28日
メディアに関しても反対派の意見については下記の記事のように多く見かけるが、今回の政策の根拠を説明するような記事は残念ながら僕が調べた限りではほとんど見かけない。なら地球を愛す僕が書いてやろうじゃないかということである。
ちなみに、僕は友人から「お前って批判的だよね」とか会社の研修で講師からは「君の批判力はメンバーのなか一番じゃ!」と言われるほどの批評家()であるのでこういったいわゆる権力者側の肩を持つのは、自分でいうのもなんだが珍しいことだと思う。僕の信条として"批判"をより有意なものにするために何でもかんでも批判するのではなく、良い政策や良い行いは良いと判断できる社会、個人が増えればと思いこういった記事を書くことにした。もちろん僕自身も知識不足やバイアスから間違ったことを書いているかもしれないので、その時はコメントをいただきたい。
また、先に断っておくと僕はいわゆる文系人間で正直、化学などの理系について疎い。なので、下記のツイートにあるようなレジ袋はそもそも環境に悪影響を与えるか与えないかといった議論については本記事で言及しない。あくまで、今回のレジ袋有料化がどのような根拠に基づいた政策かというのを経済学の観点から考えることでこの問題に関して違った見方を提供できればと思う。
ポリ袋メーカーがレジ袋有料化に伴い、レジ袋の環境負担が高くないことを訴えてるの凄く良い。
— 𝙵𝚊𝚕𝚌𝚘𝚗 (@makotofalcon) 2020年7月4日
科学的ではない雰囲気に流されたクソみたいな判断をどんどん批判していきたいよな
絶対にエコバッグ持ち歩かないしポリ袋を愛す
https://t.co/ngLciMuxNT pic.twitter.com/aEt41dVOze
"外部不経済"とはなにか
今回のレジ袋有料化は経済学で言うところの"外部不経済の内部化"ということだろうというのは前述したとおりである。このように専門用語でいえば一言で済む話なのだが、経済学とくに環境経済学をかじったことのない人(多くの人はそうであろう)にとっては意味不明な言葉だと思う。話は逸れるが、某武勇伝芸人のYouTubeのように"わかりやすさ"が持て囃される昨今では、専門用語というものがどこか否定的に扱われているように感じるが、今回のレジ袋有料化の根拠を外部不経済の内部化という一語で説明できるように専門用語というのは偉大なものである。だからこそ一般の人にはわかりづらいのだが....(もちろん僕も専門外の言葉はちんぷんかんぷんである)
まず、"外部不経済"という用語についてだが、経済学は"市場メカニズム"を非常に重視する学問である。経済学や"市場メカニズム"についての細かい説明はそれだけで長くなってしまうのでここではしないが、簡単に説明しておくと、"市場メカニズム"とはアダム・スミス*1が言った「(神の)見えざる手」が示しているように世の中は"需要"と"供給"でうまくまわるよねといった仕組みのことである。
しかし、日常生活を送っていれば実感すると思うが、この世の中というのは"市場メカニズム"(≒需要と供給)だけで説明できるほど単純でないし、この仕組みに当てはまらない(市場という仕組みを通さない)ものが多くある。これを経済学の用語で"外部性"と呼ぶ。市場というしくみの外にいるので"外部性"というわけである。
例えば、予防接種などがあげられる。コロナ禍において話題にもなっているが、予防接種はその費用(コスト)を負担する予防接種を受けた人が病気にかかりづらくなるのはもちろん、その人の周り、社会も病気が蔓延しづらくなるという便益(メリット)をうけることができる。これは、予防接種を受けた人以外は無料(タダ)で病気になりづらいという便益(メリット)をうけたことになる。無料(タダ)なので市場を経由していないことになる。つまりこの現象こそ"外部性"である。この予防接種の例では、無料(タダ)で良いことがおきているので"外部経済"という。今回のレジ袋有料化とは真逆の例である。
一方、"外部不経済"はというと環境問題の多くがこれに当てはまる。例えば、工場の生産などによる公害が上げられる。工場が生産することによってでた排ガスや排水が近隣の住民の健康を害した例は日本はじめ多くの国が経験してきたことである。(途上国は現在進行形でこの問題に直面している)
市場メカニズムで言えば近隣の住民の健康を害するといったコストも工場は負担しなければいけないが、できていなかった。市場を経由せずに第三者に被害(デメリット)を与えてしまっている。これこそ"外部不経済"である。
今回のレジ袋でいうと、下記の記事のようにレジ袋により動物が死んでしまったり、レジ袋の焼却によりCO2などの温室効果ガスが排出されることにより、気候変動が進み、レジ袋を使用も販売もしていない何も関係ない第三者が異常気象などの被害を受けるといったことが考えられる。市場を経由せずに第三者に被害(デメリット)を与えてしまっているので"外部不経済"というわけである。
では、市場メカニズムでうまくいかない*2からといって経済学がお手上げというわけではない。こういった問題の解決策が"外部不経済の内部化"でありレジ袋有料化というわけだ。
レジ袋有料化の根拠"外部不経済の内部化"とは
市場メカニズムではレジ袋問題がうまくいかないという外部不経済に対しての解決策
"外部不経済の内部化"だが、一言でいうと「市場を経由しない(市場メカニズムでうまくいかない)なら無理やり市場を経由(市場メカニズムでどうにかしてまおう)させてしまおうぜ!」というものである。これを実現することによって、僕たちが、適正な値段でスーパーで買い物ができスーパーも極端な品切れを起こさないといったように環境汚染(レジ袋)までも市場メカニズムの力で適正な度合いに調整されるのである。
問題は、どのように"外部不経済の内部化"を実現するかということだが、法律で直接的に規制する環境規制、環境を汚染するものに対して税金をかける環境税、排出権取引など様々な手法がある。(※環境規制は外部不経済の内部化と言えないため、2021/10/06訂正)
今回のレジ袋有料化をそういった"外部不経済の内部化"の手法の一つという見方ができるのではないかというのがこの記事で一番伝えたいことだ。環境省のお役人もバカではないだろうからこういった根拠があるはずである。レジ袋を有料化することで、消費者(レジ袋を使う側)に環境汚染のコストを背負わせることができるというわけだ。
今回のレジ袋有料化のポイントはインドの一部のようにレジ袋を"禁止"しているわけではないという点である。
レジ袋有料化に関しては「内部化しろ」としか言えないな。
— kurema (@kurema_makoto) 2020年7月1日
袋の価格に環境負荷の外部不経済を加えりゃ良い話。
「レジ袋便利だから有料化反対」ってのは「価格分便利なら買え」というだけ。
問題は外部不経済の算出が難しいって点だな。
個人的に1枚1円は都市環境だけでも妥当な程度という気はするな。
上記のツイートにもあるように、有料でもその価格に見合う価値をレジ袋に感じるなら買えばいいだけの話である。レジ袋を使う自由は残されているのである。逆に言えば、今まで"無料(タダ)"でレジ袋をもらえていたことのほうが不自然であったともいえる。もちろん、レジ袋の価格が妥当かどうかという問題は存在する。これは、外部不経済の内部化につきものの問題で別に議論が必要な点なのでここでは深く述べない。
おわりに
外部不経済の内部化といった視点で見れば今回のレジ袋有料化にも一定の根拠が存在することを理解いただけたであろうか。
外部不経済の内部化の細かい理論などまでは僕の力不足と気力不足ということから説明することはできなかった。この記事だけでは「レジ袋を使う自由は残されていては環境対策として意味がないのでは?」と疑問に思う方や「経済学(市場メカニズム)なんて机上の空論だ!」という方もいるかもしれない。また、これをきっかけにもっと知りたいという方もいるかもしれない(そういう方がもしいれば記事をかいてそれほど幸せなことはないです。) 、そういった方々には以下の『環境経済学をつかむ』といった本を手にしてもらいたいと思う。大学の学部の教科書などとして使われている環境経済学の入門書であるため、環境問題を社会的な観点から解決したい!知りたい!という方にはおすすめの本である。高校時代数学で赤点をとっていた僕でも理解できる程度にやさしく細かく解説されているので初学者でも理解できるはずだ。
経済学部というとどこの大学にもあり、書店にはその名を冠した本が多く並んでいるが、実際に今回のレジ袋の有料化といった経済学的知見が使われているであろう事象が起きてもメディアをはじめとして経済学の知見から述べる人がほとんどいないことに驚く。僕自身まだまだ勉強途中であり間違いもあるだろうが、何かしらアウトプットすることも必要だと感じ、初めてこういった記事を書いてみた。
大学時代は卒論の筆(タイピング)が進まずコピペで水増しをするといった情けない学生であったが、論文とは違い自由に好きなことを書けるブログでは卒論と同じ経済学をテーマとした文章でも気づいたら4000字を超えていて自分自身驚いている。好きという気持ちや伝えたいという気持ちはやはり偉大だと痛感した...
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